翠彩橋市小話「天々の缺損」

これは何ですか?

LINEアカウント「天川そーは」にて週間配信した小話をまとめたものです。
不登校気味の高校生「マガワ」が住む場所「翠彩橋市」の世界観と日常を少しだけ垣間見れる話になっています。(なっているといいですね…)

※実在するあらゆる団体・人物等とは一切関係ありません。

小話本文

#0 夢

 翠彩橋市に住む高校生の天川そーは(アマガワ・ソーハ)――通称マガワはある日の夜、悪夢に苛まれた。白い鳥が自分の頭をひたすら突き続け、脳の構築を組み替えていく…そんな恐ろしい内容だった。
 夢から現実へと脱出したマガワは、自身に異変が起きていることに気づく。カランコロンと、或いはカチカチという、異物が暴れるような音が、彼の頭の中で響いていた。

#1 手戸時病院

スポット紹介:手戸時病院
翠彩橋市唯一の総合病院です。
院長の手戸時先生が、貴方の悩みや病を解決してくれます。
それがどんな方法であろうとも…。

【白衣の男】
「鳥に頭をつつかれて脳改造された。夢だと思って目覚めたら、頭に違和感を感じて受診した…と」

【マガワ】
「受診じゃなくて、相談。間違えないでよ」

【白衣の男】
「医者に症状の相談なんて、どう考えても受診だろう」

【マガワ】
「ヤブ医者のくせに…」

【白衣の男】
「この町に医者は私しかいないからね。で、話を聞く限り…君は悪夢障害じゃないかと思う。現実世界とリンクした悪夢を長く見る人間は、大きなストレスを抱えている傾向がある。最近大きい刺激は受けたかい?」

【マガワ】
「…頭の違和感」

【白衣の男】
「おいおい、いい加減自分のことぐらいちゃんと説明出来るようになれよ」


 鳥に襲われる夢を見て以来、頭の中にカランコロンという音が響くようになった。
  一週間経った今も騒音は続き、ああこれは厄介な病かなと考えて、ヒトを治すことに長けた人間の力を借りることにした。…気は恐ろしく乗らないが、仕方ない。
 この町、翠彩橋市において…医者と呼べる人物はなぜか一人しかいない。
 手戸時森(テトドキ・シン)―――緑髪と白衣が特徴の…僕がこの町で最初に出会った人間だ。妹と病院を経営していると自己紹介を受けたが、それが本職でないことを知るヒトは、僕を含めた数名だけだろう。
 手戸時に「悪夢障害」の診断書をもらう。
 彼に示された次の目的地は、僕が通う学校――「双惺高等学校」だった。

#2 双惺高等学校

スポット紹介:翠彩橋市双惺高等学校
翠彩橋市瀬戸内区にある高等学校です。
突飛つした物はなく、いたって普通の男女共学な学校です。
毎年一つのクラスだけ、模試の平均偏差値が異常に高くなる
"怪奇的現象"を除いては…。

【赤い眼鏡の教師】
「悪夢って、具体的にはどんな内容なの?」

【マガワ】
「鳥に頭を突かれたり、迷路でずっと迷いつづけたりする夢です」

【赤い眼鏡の教師】
「…それって悪夢なのかしら。もっと恐怖感溢れる内容だと想像していたのだけれど」

【マガワ】
「知らない。夢なんてあまり見たことなかったから」

【赤い眼鏡の教師】
「まあ、"天川くんにとって"は悪い夢なのかもね。手戸時くんもきっとそう考えて診断したのよ」

【マガワ】
「あーあー手戸時の考えなんてわかりたくないよ。まあ…頭に変な感覚が残ったのは“鳥の夢"を見てからだし、ある意味間違っちゃあいないけど」

【赤い眼鏡の教師】
「もしかしたら、その頭痛も"夢"だったりして…なんてね」


 学校で僕を出迎えてくれたのは羽成先生だった。手戸時から連絡があった、と話す先生の表情は、僕が来ることを遠い昔から知っているかのように思えた。
 羽成綸(ハナレ・リン)は、翠彩橋市唯一の高校―――双惺高等学校の理科教員だ。僕のクラス「2-β」の担任でもあり、僕が所属している部活動「エスエフ研究会」の顧問でもある。
 この街で手戸時の次に出会った住民である彼女は、僕を転校生として学校に迎え入れ、「安寧な人生の保証」として青い髪飾りを作ってくれた。先生が話すには、この髪飾りには特別な力があるらしい。そういう話は疎く、先生の言葉はよくわからなかった。
 先生との面談の中で、ようやく今日が土曜日であることに気づいた。金曜日以外に学校に来るのは本当に久しぶりのことだった。「顔を出してきたらいいんじゃない」と言われ、僕はエスエフ研究会の部室に向かうことにした。

#3 双惺高等学校―エスエフ研究会

スポット紹介:エスエフ研究会
双惺高等学校には28の部活動が存在しています。
その中の一つであるエスエフ研究会は、
人数は多くなくとも部室には常に人がいました。

【赤く熱血な男子】
「っしゃあ!もう少しで俺のロボットが完成だ!」

【青く冷静な男性】
「シールド作るだけで二時間か…ガラクってプラモ作成経験浅い?

【赤く熱血な男子】
「初めてのプラモだから仕方ねーだろ?スーゼ、オメーはどうなんだよ」

【青く冷静な男性】
ガラクよりはある」

【赤く熱血な男子】
「なんだと!?俺もロボへの愛なら負けてねえからな!」

【青く冷静な男性】
「知ってる、痛いほど」

【マガワ】
「君たちさあ、部室で何やってんの?」


 登校日に必ず寄る場所の一つが、「エスエフ研」の部室だ。
 部長の画楽瑞希(ガラク・ミズキ)と、部員の沙凪数瀬(サナギ・カズセ)――通称スーゼ
 エスエフ研はこの二人の溜まり場みたいな所で、ろくに活動なんかしてない。目の前みたく、プラモデルやマンガで時間を潰しているのがこの部活の日常だ。
 エスエフ研には彼らと僕を含めて、4人しか部員がいない。僕ともう一人――生徒会長の女子――は無理やり入部させられた結果、部員としてこの空間への入場券を得た。困った話だ。
 ロボットの話で白熱するガラクスーゼをよそに、僕はスマートフォンの画面へと逃げる。画面の時刻は土曜日の21時を示していた。

…土曜日の、"21時"?

 部室の窓から見える空は21時にしてはあまりにも太陽が高い。慌てて部室の時計に顔を向けると、少しだけハイテクなそれは"金曜日の13時"を知らせていた。
 何かがおかしい。
 羽成先生の元で今日が土曜日だと確認したのは、ついさっきの話だ。…何を見てそう確認したのか、まったく覚えていなかった。その情報だけが頭から抜け落ちていた。
「そういえば、マガワにラブレターだってさ。女子から」
 ガラクが茶化しながら僕に得体のしれない紙を渡す。恐る恐る開くと、見覚えのない名前と筆跡がそこにあった。もとろんそれはラブレターなんて代物ではなかった。

天川さん、はじめまして。
 時間はありますか?
 そろそろ違和感に気づいたのではないでしょうか。
 わたし、喫茶店でパンケーキが食べたいんですよ。
 "喫茶モルモル"の禁煙席に、“シイロ"の名前で席を取ります。
 時間がもっと"ずれ"ないうちにお越しくださいね。」

#4 喫茶モルモル

スポット紹介:喫茶モルモル
翠彩橋市瀬戸内区にある格調高い喫茶店です。
店の歴史は古く、今の店長は三代目だと噂されています。
特にパンケーキ・タワーが名物で、指定料金を払うことで
パンケーキをいくらでも上乗せすることが出来ます。

【白く鳥を思わせる女性】
「モルモルのパンケーキは絶品なのですよ。翠彩橋ウォーカーの特集はご存知ですね?」

【マガワ】
「………」

【白く鳥を思わせる女性】
「まあわたしが直々に編集に命じたので、当然の事ではありますが」

【マガワ】
「………」

【白く鳥を思わせる女性】
「パンケーキ・タワーでもご馳走しましょうか?貴方のような年頃の男子は食べ盛りでしょう。」

【マガワ】
「甘いものはそんな好きじゃない。で、あの鳥は?」

【白く鳥を思わせる女性】
「ええ、彼が貴方の頭から少々情報を抜き去りました」

【マガワ】
「…どうしてそんなことを?」

【白く鳥を思わせる女性】
「翠彩橋市の住民様方は被検体として"市役所"が実施する"実検"の参加義務がございます。その一つに過ぎません」

【マガワ】
「そのジッケンって、何をしているの」

【白く鳥を思わせる女性】
「多義に渡りますね。今回は鳥型デバイスを用いた脳内記憶領域へのアクセス及びデータの抽出です。その過程で貴方様の"時間軸の感知方法"に異変が生じました。頭の中に時計の針の音が響きませんでしたか?」


 喫茶モルモルという店は、耳が遠い年配のマスターが営む喫茶店だ。
 飲み物1つ頼むのにお札が必要なこの場所は、僕みたいな高校生が一人で来る場所ではない。そんな所を好んで待ち合わせ場所にする人間なんて、僕の知り合いにはいない。
 目の前の胡散臭い人間は、自身を“シイロ"ではなく島柄長鴿子(シマエナガ・ハトコ)と名乗った。"市役所"―――僕をこんなことに巻き込んだ連中の一人は、にこやかに紅茶とパンケーキを楽しんでいる。
 僕は眠っている間、鳥によって脳内の情報を抜き取られ、時間の認識がおかしくなったらしい。その症状を修復するべく、彼女はコンタクトを試みたと言う。僕は知らないうちに"市役所"とやらの手のひらの上にいたわけだ。
 マスターの計らいで僕らは個室を貸してもらった。島柄長から1錠の睡眠薬を受け取る。僕が寝ている間に彼女が直々に脳を治すらしい。
 喫茶店の時計を見ると、ついさっきエスエフ研で見た日付から一週間が過ぎていた。僕はうんざりして錠剤を水で喉に流し込み、すぐに目を閉じて横になった。
 次に眠りから覚めたら、いつも通りの憂鬱な金曜日が訪れるのだろうか。

#5 淡い慈愛のこころ公園

スポット紹介:淡い慈愛のこころ公園
瀬戸内区にある自然が豊かな公園です。
住民から名前を公募したところ、たくさんの応募があった為
その中から「淡い」「自愛」「こころ」の3つを選出いたしました。

【境界が曖昧な子供】
起きないね、天川さん。センセ呼ぶ?

【天真爛漫な少女】
待て待て!こんなチャンス滅多にない!日頃の恨みを晴らすいい機会だっ!

【境界が曖昧な子供】
そんなことしてるからいつもイジメられるんじゃ?
それに、天川さん、平気なの?

【天真爛漫な少女】
ジサツのマネごとなんて、そーははいっつもやってるぞ。
こないだネギで自分の首シメようとしてたし。まー3秒で辞めてたけどな!

【境界が曖昧な子供】
ジサツガンボーってヤツかな。こないだ授業でやった。

【天真爛漫な少女】
でも、"外"で寝てんのは気になるな。アイツ、ぼくと付添じゃなきゃ絶対一人で外に出ないからな。
外が嫌いって口癖のように言ってくるし。考えらんねー。

【境界が曖昧な子供】
やっぱり奇妙だよ。誰か呼ぶべきだ。

【天真爛漫な少女】
その前に!こいつの額に油性ペンで落書きしてからだっ!
ほら、イッキもやろーぜ!お前こないだそーはにおやつとられただろ?

【マガワ】
全部聞こえてるんだけど。

【天真爛漫な少女】
ぎゃあ!

【境界が曖昧な子供】
あ、天川さん、おはようございます。


 あの換気がなってない喫茶店で意識を手放してから、どれぐらい経っただろうか。目の前には見知った顔と忌々しい青空が並んでこちらを向いていた。
 2つに分けた薄紅色の髪が目印の少女、雪条つむぎ(セツジョウ・ツムギ)
 性別も年齢も"はっきりと分からない"子供、織田一希(オダ・イツキ)――通称イッキ
 学校帰りや休日に理由なく僕の家に上がり込む二人は、この町において最も交流がある人物だった。

 僕は制服姿で公園の隅に身を投げ出されていた。島柄長の"治療"が上手くいったのかは知らないが、頭に響く騒音は鳴りを潜めていた。
 今日が金曜日だと知らされ、起き上がって彼女らに背を向けた―――瞬間、背中に強い衝撃が走る。姿勢を崩して地面に強く顔をぶつけた。顔についた砂を払い、衝撃の根源を明らかにする為に振り返ると、憎たらしく笑う雪条くんがスマートフォンの中に映るカレンダーをこちらに向けていた。

「バーカ!今日は祝日だよ!」

おわり